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三浦瑠麗の「大阪には北朝鮮の工作員が多数潜伏している」発言について

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三浦瑠麗が、フジテレビの「ワイドナショー」に出演した際の発言が炎上している。炎上の理由は、ざっくり言えば、「大阪には北朝鮮工作員が多数潜伏している」と番組中で発言し、明確な根拠が無い中で、視聴者を不安に駆り立てたというものである。

togetter.com

 

この発言の問題点も、下町ボブスレーのエントリー同様、はっきり言って1ツイートですべての問題点を語ることができる内容である。そのため、このエントリーは、ある意味で非常に長大な蛇足である。

ただし、今回のツイート主は自分ではなく、映画評論家の町山智浩の下記ツイートである。三浦瑠麗自身が映画「デトロイト」を鑑賞していることを突いた、非常に端的な指摘であり、申し分のない「蜂の一刺し」である。*1

 

三浦瑠麗の「ワイドナショー」でのコメントは、映画「デトロイト」で発生した実在の事件の契機と、構造的に恐ろしく似ているもので、むしろワザとやっているんじゃないのか? と勘ぐりたくなるほどのものである。

本件は「ヘイト・クライムはどういう契機で発生するのか?」を考える上でうってつけの題材なのではないかと思料するので、本エントリーにて取り上げようと思う。

したがって、このエントリーは映画「デトロイト」のネタバレを多分に含んだ内容になっているので、映画を見ていない方は、是非劇場などで見てから本エントリーを読んでほしい。大して映画を見ない自分が言うのもアレだが、「デトロイト」は自分の中では早くも本年度ナンバーワン映画候補である。

www.longride.jp

 

 

ワイドナショー」での発言詳細とその後の自身の見解

色んな所でも展開されているワイドナショーでの発言は下記の通りである。

三浦 もし、アメリカが北朝鮮に核を使ったら、アメリカは大丈夫でもわれわれは反撃されそうじゃないですか。実際に戦争が始まったら、テロリストが仮に金正恩さんが殺されても、スリーパーセルと言われて、もう指導者が死んだっていうのがわかったら、もう一切外部との連絡を断って都市で動き始める、スリーパーセルっていうのが活動すると言われているんですよ。

東野 普段眠っている、暗殺部隊みたいな?

三浦 テロリスト分子がいるわけですよ。それがソウルでも、東京でも、もちろん大阪でも。今ちょっと大阪やばいって言われていて。

松本 潜んでるってことですか?

三浦 潜んでます。というのは、いざと言うときに最後のバックアップなんですよ。

三浦 そうしたら、首都攻撃するよりかは、他の大都市が狙われる可能性もあるので、東京じゃないからっていうふうに安心はできない、というのがあるので、正直われわれとしては核だろうがなんだろうが、戦争してほしくないんですよ。アメリカに。

 

これに対しネット上を中心に大きな反応が巻き起こったわけだが、そのことについてハフィントンポストが記事を起こし、三浦瑠麗は取材に応じている。

www.huffingtonpost.jp

 

取材にへの回答につき、全文を書くと著作権の問題もあろうと思うので、要点を抜粋した。下記のとおりである。(半分以下になっていないのであまり要約になってないが)

  • 北朝鮮のスリーパー・セルについては複数の海外メディアが報じている。
  • スリーパー・セルは都市部に潜伏しており、その攻撃は首都に限らず第2位以下の都市でも起こりうる。いきなり首都に攻撃すると、全面戦争を招きかねないからだ。
  • 大阪では実際に北朝鮮による拉致事件が起こっているうえ、大阪ゆかりの番組なので、大阪の危険性について話をした。この程度の話もできないのでは、日本で安全保障の議論はできない。
  • 自分は番組内で在日朝鮮人に対しての発言はしていない。この発言で在日朝鮮人について想起するのは、それ自体がむしろ差別的な発想である。
  • 自分が番組であのような発言を行ったのは、米による核の先制使用を牽制したいがためである。

 

同様の内容は三浦瑠麗自身のブログにも記載している。

lullymiura.hatenadiary.jp

 

ブログでは上記要約における「複数の海外メディアが報じている」のソースとして下記を取り上げている。

www.dailymail.co.uk

 

……まさか、「イギリスの東スポと名高い、デイリー・メールをソースとして持ち出すとは思わなかった。UFOや宇宙人の記事を多く掲載することでも共通点が多く、英語版ウィキペディアはデイリー・メールを信用できない情報源とし、原則として引用を禁止したほどである。

まあ、東スポにも事実が載る事はあるし(例えば日付とか、プロレスの試合の結果とか)、東スポの政局記事は独自のプロレス目線で描いており、時々侮れないこともあると極々一部では評判なので、あまりバカにしないでおこう。*2

 

そんなわけで、三浦瑠麗としては当然語られるべき事を語ったのである、という見解には変わりはなく、差別への加担もしていない、ということのようなのである。

 

スリーパー・セルについての自分の見解

まず、デイリー・メールの信頼性は別にして、スリーパー・セルは実在するのかという問題である。いるのか・いないのかと問われれば、存在を否定は出来ないだろうと答えるしかない。これまでの北朝鮮の工作活動などを考えると、東スポやデイリー・メールが記事にする宇宙人以上には、存在する蓋然性はあるのではなかろうか、と考えている。

70年代~80年代前半において、北朝鮮による拉致は都市伝説として語られるようなもので、自民党の一部の議員がそのようなことを口にすれば、社会党の議員やメディアから矢のような批判を浴びたものだった。だが、その後拉致の実態が明るみに出て、旧社会党の安全保障に対する言論に説得力が失われていった。そういった経緯からも考え、自分は完全否定はしないという立場である。

だが、スリーパー・セルが日本において大規模な破壊工作を行うことができるのか、という点については、はっきり言って疑問がある。日本の警察組織は非常に強力であるし、移民なども少ない日本において、一般的な住民とは違う活動を少しでもしている者は目につきやすいものである。したがって、スリーパー・セルは組織的な活動を行うことはできず、個人個人で独自に活動をしなければならない。銃器や火薬の所持・持ち込みが極めて難しい日本において、個人個人で存在するスリーパー・セルに、東日本大震災直後においても大きな社会的混乱が起こらなかった日本社会に、大きな混乱を起こせるだけの破壊工作が行えるのかは疑問がある。

 

本題:三浦瑠麗発言の問題点を映画「デトロイト」になぞらえ分析する

凄まじく前置きが長くなってしまったが、ここからが本題。

日本におけるスリーパー・セルの活動の可能性については、前にも書いたように、拉致事件などの経緯も考えると、すべてを否定することは難しいだろう。

また、三浦瑠麗は確かに在日朝鮮人社会とスリーパー・セルに関係性があるなどとは一切言っていない。その為、彼女自身があの場で直接的に差別的な言論を行ったとは言えない。

だが、それでも三浦瑠麗の発言には大変問題があると言わざるをえない。その問題とは、具体的な地域における姿の見えない恐怖を、なんの対応策(警察によるものも含む)も明示せずに地上波のテレビ放送に放り出したことである。あえて「いま大阪がヤバイ」と名指しはするが、決してそれ以上のことは言わない、という匂わせ方が非常に巧みであるし、大変狡猾である。

それは、ある意味で直接的な差別行為より質の悪い、ヘイト・クライムの扇動となり得る発言である。

 

どのように問題があり、なぜ差別の差別となりうるのか。映画「デトロイト」において描かれたデトロイト暴動や、その中で起こったアルジェ・モーテル事件になぞらえて考えると大変わかりやすい。そのため、まずデトロイト暴動の経緯と、アルジェ・モーテル事件の経緯を要約し、その後で三浦瑠麗発言の問題点をまとめるとしよう。*3

 

デトロイト暴動の経緯

デトロイト暴動はアメリカ最大級の暴動と呼ばれている。それは、デトロイト市警が市の西側の12番街低所得者居住地域にあった、無免許の時間外酒場(当時は深夜2時以降の営業は禁じられていた)への捜査を行ったことへの反発から始まった。
手入れの際、元々の警察の予想では、数人の客がいるだけのはずだったが、実際には82人もの黒人がいて、ヴェトナム戦争からの2名の帰還のお祝いをしていた。
警察は彼らを全員逮捕したが、元々そんな人数の逮捕を想定していなかったため、護送車の応援を待たなければならなかった。
護送車を待つ間、周囲にいた野次馬の黒人たちの人数は膨れ上がり、やがて警察に対する投瓶を始めた。最後の護送車が出発した後、集まった黒人たちは暴徒化し、略奪が始まった。
混乱は時間が経過するにかけて市内各地に広がり、大規模な略奪、放火、銃撃が市内各地で勃発した。その結果、43人の命が奪われ、1100人以上の負傷者、7,200人の逮捕者を数える大事件となった。暴動の鎮圧のために、警察だけではなく、国境警備隊や陸軍まで動員された。

デトロイト周辺には20世紀初頭から黒人が大量に移住していた。他地域からの移民との対立の中で、特に住居と仕事に関して差別を受けていた。黒人たちの住む地域はスラム化していて、事件の発端となった地域もそういう地域だった。

事件当時の60年代のデトロイトは、上記20世紀初頭から移住しだした黒人たちの中から社会の上層に移るものも出始め、人種融和のための各種の改革も行われ始めていた。だが、その改革がなかなか進まないことと、これまでの差別の歴史から黒人たちに不満が溜まっていた。

そんな中で起こった警察の捜査を、黒人たちは人種バイアスのかかった行動なのではないかと受け止めた(当時、デトロイト中心部の警察官は98%が白人)ことが、暴動の直接の要因となっている。つまり、この暴動の直接原因は違法な酒場への手入れではあったが、その背景まで探ると、歴史、差別、貧困、社会への疑念、みたいなものが渦巻いていたということである。

 

デトロイト暴動の中で起こった、アルジェ・モーテル事件の経緯

暴動開始から3日目の夜、アルジェ・モーテルで1発の銃声が発生し、モーテルに一斉に警官たちが駆けつけた。警官たちは日々発生する暴力的行為や略奪に殺気立ち、さらに日常的に狙撃の恐怖に怯えていた。

銃声はモーテルにいたカール・クーパーという17歳の黒人男性によるものだったが、彼が撃ったのは実銃ではなく、陸上競技などに使うスターターピストルだった。当時アルジェ・モーテルには、暴動から避難する者たちが多く集まっていて、ロクに外にも出られない日々に、鬱憤が溜まっていた。その多くは黒人だった。クーパーもそんな者達の1人で、スターターピストルによる「イタズラ」は、憂さ晴らしのために行ったものだった。

銃撃を受けたと勘違いした警官たちは、モーテルに銃撃を浴びせたあと、突入した。突入の際、銃撃に恐れをなし外に飛び出したクーパーを射殺した。クーパーはその場では、「ナイフを持っていたために正当防衛で射殺された」ことになった。

踏み込んだ警察官の中に、フィリップ・クラウスという、正義感は強いが、黒人に対して差別的な白人警官がいた。「容疑者共」は黒人ばかりだし、犯人を見つけるのに手段を選ぶ必要はないということで、彼は自分たちを狙撃した銃を見つけ出すために、たまたまモーテルに居合わせた客(白人女性2人、黒人男性7人)に対して執拗且つ暴力的な尋問を繰り返した。*4

客らを壁に向かって立たせ、暴行を加えながら自分らを狙撃した銃の在り処を自白させようとするが、客らは誰も自白しない。また、部屋を捜索しても銃は見つからない。

苛立ったクラウスは「死のゲーム」を思いつく。壁に向かって立たせた者たちを一人ずつ別室に連れ出し、尋問の結果自白しなかった者を、なんと「射殺」してしまったのだ。

この「射殺」は、発砲して脅しただけで、実際には殺してはいなかった。自白しなかったことで「殺された」ような形になるようにし、その様子を壁に並んでいる連中に聞かせることで、自白を促すために考えたことだった。「射殺」された者に、警官は「その場を動かずおとなしくしてろ」と言った。この「死のゲーム」は、クラウスと同行した警官の間で、阿吽の呼吸で行われることになった。

「死のゲーム」は続き、1人また1人と、モーテルの客は「射殺」される。だが、「死のゲーム」をやっていた警官の中に間抜け野郎がいて、これが「ゲーム」であることを理解しておらず、なんと本当に1人の黒人を撃ち殺してしまったのだ。殺されたのは、オーブリー・ポラード。

また、結局銃は見つかることがなく、捜査は空振りに終わる可能性が濃厚になってきた。この場の収集に困ったクラウスは、「この件について秘密にするのであれば、お前たちを釈放する」と宣言する。他の客らは同意したが、一人フレド・テンプルは同意せず、彼はなんと射殺されてしまった。

この事件で、黒人男性の3人が射殺され、警官たちはその後殺人容疑で逮捕された。彼らは裁判を受けるが、なんと全員無罪判決を受けた。

事件後の無罪判決といい、全てが胸糞の悪くなる話である。映画「デトロイト」の中で、上映時間の実に40分に渡って提示されたシーンである。暴動の中における恐怖、差別意識、正義感みたいなものが混ざり合い、惨劇は生み出されたということである。

 

被害者意識や恐怖が人を凶行に駆り立てる

ここまで見てもわかるように、デトロイト暴動にせよアルジェ・モーテル事件にせよ、 契機となっているのは被害者意識や恐怖である。さらにその現場には直接的には存在しない、鬱憤やら歴史、それらに起因した被害者意識や差別意識などが、集団や1人1人の精神に注入されて行き、圧力が限界を超えた中で凶行は行われたのである。

デトロイト暴動と、その中で行われたアルジェ・モーテル事件について、下記のように対比してみた。暴動やヘイトクライムは、なるほどこのようにして行われるのかと納得する。そして、デトロイト暴動の根っこには、歴史的に行われてきた差別がある。つまり、1つの差別の根っこには、歴史的に積み上げられてきた重層的な差別の問題があるのだとよく分かる。

  デトロイト暴動 アルジェ・モーテル事件
仕掛けた側 黒人 白人
発端 違法営業の居酒屋の摘発 銃撃を受けたとの誤認
背景 ・貧困と差別
・進まない社会の改革へのいらだち
・これまでの差別への怒り
・暴動鎮圧に向けた正義感
・いつ狙撃されるかわからない恐怖
・自分たちに向けられた銃撃への怒り
深層心理 ・白人たちは自分たちを差別している
・奴らとわかり合うことはできない
・自分たちは攻撃されている
・低能な黒人たちは社会を破壊している
・奴らとわかり合うことはできない
・自分たちは攻撃されている

 

さて、ここでようやく三浦瑠麗である。彼女が「大阪には北朝鮮工作員が多数潜伏している」とテレビで言うことの何が問題なのか。

ここまでデトロイト暴動とアルジェ・モーテル事件の経緯を読んだ人は何となくわかると思うが、対象のはっきりしない被害者意識や、姿の見えない恐怖というものは、人を凶行に駆り立てる最たるものである、ということだ。そこに社会的な差別の構造があった場合、その凶行はヘイト・クライムになる。

言うなれば、彼女のテレビでの発言は、モーテルでクーパーが放ったスターターピストルの銃声なのである。

まして、大阪には実際に鶴橋を中心とした在日朝鮮人のコミュニティーが存在し、一定の力があると認識されていることが多い。

そういう大阪を名指しで(しかし、名指しの理由は言わない。そこが狡猾なのだ)、しかも具体的な根拠も明かさず、スリーパー・セルなどという薄気味悪い道の存在が、一般人として日常生活を送りながら「潜んでいる」などと言ったのだ。

これをヘイト・クライムの扇動と言わずしてなんというのだろうか? 「ひそんでいるのなら、炙り出せば良い」と考えるものが出てくるに決まっているではないか。ただでさえ日本には、このような扇情的な新聞記事を書くようなメディアがあるのだから。

www.po-jama-people.info

 

三浦瑠麗の発言を真に受けて、大阪の在日コミュニティーなり、それらに融和的な識者・メディアへのテロ行為があったとすると、その経緯は下記の構図にまとめられることになるだろう。

  アルジェ・モーテル事件 ワイドナショー事件
仕掛けた側 白人 日本人の極右勢力
発端 銃撃を受けたとの誤認 三浦瑠麗による、工作員の存在示唆
背景 ・暴動鎮圧に向けた正義感
・いつ狙撃されるかわからない恐怖
・自分たちに向けられた銃撃への怒り
・日本の安全保障に対する正義感
・工作活動に対する恐怖
・自分たちに向けられた脅威への怒り
深層心理 ・低能な黒人たちは社会を破壊している
・奴らとわかり合うことはできない
・自分たちは攻撃されている
北の工作員に社会が破壊されている
・奴らとわかり合うことはできない
・自分たちは攻撃されている

 

その事件でどんな凄惨なことがあったのだとしても、彼女はきっといつもどおりの涼しい表情で「私がヘイト・クライムを先導したのではない」と語るだろう。

アルジェ・モーテル事件では、警官たちは結局罪に問われることはなかった。アメリカには陪審員という制度があり、彼らが認めない罪は罪に問われない。

三浦瑠麗は、おそらく日本の世論が、自分の陪審員となってくれることを期待しているのだ。

*1:なお、三浦瑠麗の「デトロイト」の評の内容がまたものすごいのである。あの映画から何を読み取ったのか、ここまで人間の認知に違いが出るのかと、驚愕する思いである。

www.asahi.com

トランプ大統領が「人種問題は経済問題である」と語っているのですが、ある意味その通りで、経済問題が解消すれば白人の偏見はなくなり、黒人側の差別的な状況も解消されるのではないかと思います。ただ、アメリカは分配をしない国で、社会保障もなければ、すべてが実力によってのみ成立しています。それもあって白人と黒人の経済格差は一朝一夕には縮まらないのが現実です。

ここに彼女の人種差別問題に対する認識の薄っぺらさが凝縮している。

*2:プロレスと東スポをバカにするやつは許さんぞ!

*3:要約、要約、などと書きながら長くなってしまうことをご容赦願いたい。差別について町山氏のように端的に書くことはできるのだが、要素を一つ一つ明らかにし、整理して横並びするのには、それなりの文字数を要するのだ。

*4:映画「デトロイト」において、フィリップ・クラウス役のウィル・ポールターがとても素晴らしい演技をしたことは、何度でも重ねて言いたい。ウィルにとって、このような差別主義者の演技をすることはとてもつらく、撮影中泣き崩れたこともあったそうだ。それでも最後までこの役をやり通した、ウィルの役者魂に敬意を評したい。