昨日午後14時頃、新宿東南口で、立憲民主党の海江田万里に対する大規模な応援演説が行われた。会場は熱気に包まれ、聴衆は見る見る間に膨れ上がった。
喉に刺さった小骨
野党の応援演説がこれほどの熱気に包まれているのを見るのは、自分としては初めてだった。また、動員をかけているのかどうかは、当然自分には知り得ないことだが、感覚的には、たまたま東南口に降りた人たちが、足を止めて聞き入っているのが多いと感じた。
自分は新宿に住んでいるので、せっかく近所だしと、自宅から歩いて何となく見に行ってきた。大階段の上の方に陣取ることになってしまったので、言っていることが聞き取れない部分も多かったが、この熱気を見るだに、立憲民主党はかなり健闘するだろうと思った。
さて、このエントリーの主題は、この応援演説におけるハイライトである、枝野幸男の演説では、ない。あとで演説の文面をネットで拾い読みなどして、なるほどよい演説だと思ったりもした。だが、器がおちょこ並みに小さい自分としては、どうしても喉に刺さった小骨について語りたくなってしまう。
喉に刺さった小骨とは、小林よしのり、テメエだ!
最近は民進党や立憲民主党にすりよって、日本会議界隈やネトウヨには距離を置くようなポーズを取っているが、今の、特にネットを中心とした言論の無残な状況は、全てテメエが原因なんだよ!
小林よしのりの「スタイル」とネット右翼の親和性
まず、勘違いしてもらっては困るのは、世論が右傾化してしまったことを自分は憂いている・恨んでいるのではないということだ。大体自分は堂々と人に左翼だと名乗り、思想に偏りがあると認めているので、世論のバランスが悪いだのなんのという事や、右翼の台頭など、そんな事はどうでもいいのである。むしろ話ができる右翼はアホみたいな左翼より大変好ましいと考えている。
自分が憂いているのは、小林よしのりが生み出した「スタイル」が世間に蔓延し、特にネットを中心とした言論において中心的なスタイルとなっている点である。
そもそも小林よしのりがネット右翼を生み出した背景は、単に彼が「戦争論」で描いたような事が、出版した当時新鮮だったというのが理由ではない。
思想的な広がりを見せることはなかったが、小林よしのりが書いていた程度のことは、それまでも「正論」やら「諸君」やらに書いてあった。
だが、実際小林よしのりが書くことで大きく広がりを見せた。それはなぜかというと、自分に言わせれば、彼の表現スタイルにこそ理由があるのだ。
ネット右翼とは、小林よしのりのようなスタイルで右派的な心情を語る人々の事である
小林よしのりは、「戦争論」以前もそうだったが、下記のような非常に扇情的な手法を用いて自身の「思想」を語る漫画家だ。自分に言わせれば、これこそ現代の言論の分断状況を生み出している元凶である。
思想的に敵対する人物を見苦しく描き、矮小化する表現
辻元清美や福島瑞穂など、どれだけ見苦しく描かれたか。名前も時に「辻ボートピス美」などと呼んでいたりした。最近は小林よしのりと辻元の間で付き合いが多いようだが、辻元清美の器のデカさに救われているだけである。よく食事の席に同席できるものだ。*1
小林よしのりが右傾化する前は西部邁など3頭身になったり散々矮小化して描かれたりしたが、右傾化後は普通のビジュアルでしか出てこなくなった。
先に上げた辻元も、以前はこんなビジュアルで出していたのに*2
最近はこんなビジュアルで登場するようである。罪滅ぼしのつもりなのか知らんが、なんぼなんでも美化しすぎやw*3
特定のキーワードを愚者の象徴として連呼しレッテル貼り
「サヨク」という言葉を最初に使ったのは島田雅彦の「優しいサヨクのための嬉遊曲」だろうが、世間に浸透させたのは間違いなく小林よしのりだろう。
戦争論以降、特にこのキーワードは多用され、議論を切断し、相手に愚者としてのレッテルを貼るためのキーワードとして用いられていたのだ。「XXXはサヨク!」と叫ぶだけで何かを論破したような爽快感をあちこちに与えていた。
ネット右翼が盛んに「サヨク」「左巻き」などと今でもいうのは、小林よしのりの残した影響なのだ。*4*5
そして、そのキーワードで相手を罵倒し、自分を特定のキーワードで守ろうとする愚劣な手法は、#東京大作戦1014において、小林よしのりは応援演説においても使っていた。
自分はこの言葉を聞いた瞬間に呆れてしまった。
枝野が左翼とは全く思わんけど、「もっと保守」とか、なんか保守って立場は印籠になるほど確かで安心できるポジションなのかね。こういう無自覚な前提のバラマキであったり、レッテルの貼り方であったりが、ネトウヨを産んだのであるという自覚が全くないのな、このコヴァという男は。
— ボビー・ブラウン (@po_jama_people) 2017年10月15日
保守は、応援すべき正義の旗印であると。保守=正しい、脊髄反射レベルの思考回路がなければ、様々な思想を持つ人々の前で行う応援演説において、このような言葉は出てこないのである。
分断を生んだ男、小林よしのり
レッテル貼りと卑小化・矮小化、これらはネット右翼が十八番とする手法であり、というか彼らの言論活動にはこれしかない。中身の思想などなく、はっきり言ってあとは心情をダラダラ垂れ流しているだけである。*6
「すべての事は、サヨクを鏡とし、サヨクと逆の事をすれば全てが正しい」というのが彼らの原理であり、安倍晋三がネットで過大に支持されるのもその結果にすぎない。
そして、レッテル貼りも卑小化・矮小化も、つまるところ議論を切断し、「内容なんてどうでもいいけど、あいつはとにかくXXXなんだから、俺らのほうが正しい」と言うための手法なのである。これらは全て、ネット右翼が小林よしのりから学んだ手法なのである。
もっと言えば、これらは左翼も含めた運動家のプロパガンダの手法でもある。小林よしのりは日本会議の連中のようにこれを右側に応用し、しかも大衆にわかりやすいように漫画という媒体を用いて行ったのである。
小林よしのりの演説の後で、枝野幸男はこのように聴衆に語りかけた。
でも数を持っているから、国民に知らせなくていい、説明しなくていい。反対意見は切り捨てる。これは本当の民主主義ではありません。 こんな上からの政治だから、国民の政治離れ、政治不信が高まっていて、これまた社会を分断しているんじゃないでしょうか皆さん。
誠に正しいことを言っている。
一方で小林よしのりは、漫画という媒体を通じてこういう事を繰り返し世間に語りかけていたのである。
「あいつらが何か言っているけど、結局サヨクの言うことなのだから、どうせアホな事を言っているだけなのだから、聞く必要はないよ」
世相が分断され、あらゆる政治的課題の議論が「いかに格好良く相手を切り捨てるところを世間に見せるか」という、安倍晋三や維新の会の面々に見られるような、非常に卑劣で愚劣なスタイルになっていったのは、
小林よしのり、テメエのせいだ!
*1:知らない人のために一応解説すると、辻元清美は「ピースボート」の立ち上げ人の一人である。大学時代に立ち上げた、学生ベンチャーである。大学生でありながら世界一周の旅のベンチャーを立ち上げようとは、スケールのでかい話だ
*2:しかも名前間違えてるw
*3:民進党を裏切った細野は今後どんなビジュアルで登場するんですかね?w
*4:「うす甘い」とかもよく使ってたね。あと、キーワードではないが愚者サヨクを表現するのに、お花畑もよく描いていた。ネトウヨのよく使うキーワードの多くは、小林よしのりが浸透させたと言っても良い
*5:戦争論の中では「チャンコロ」なんてのも使われていたと思う。当時を再現する意味で。ネトウヨはアホだから、そういうのを現代の街で使っても良いと思い込み、ヘイトスピーチが街に溢れ出る契機にもなったと思う
*6:三島由紀夫は「右翼とは、思想ではなくて、純粋に心情の問題である」と言ったようである。三島由紀夫に言わせれば、彼らがダラダラと心情を垂れ流すのは右翼としておかしくはないのかもしれないし、もし三島由紀夫が今も生きていたら、ネトウヨ化……しないかな流石にw