拝啓 ウーマンラッシュアワー村本大輔様
年明けの「朝まで生テレビ!」にご出演されたとのことで、ある意味、芸人としての「アガリ」に達せられたようで、お慶び申し上げます。
村本様の番組出演、残念ながら私、1月1日の早朝からシステムトラブル対応に伴い鬼出社となってしまい、拝見する事が叶わなかったのですが、ネットに流れた番組内容についての数々の情報や、番組出演後の貴方のツイートを拝見させて頂き、また、これまで見た朝ナマ出演時の御発言など踏まえた上で、いくつか感じることがありました。
本日はその事につき書き記しておきたく、ここに筆を(キーボードを)執らせて頂きました。
知への軽蔑・軽視
番組出演時、幾つかの発言において、極めて残念なことになってしまったようですね。例えば、「尖閣諸島が侵略されたらどうするのか」という質問に貴方は、「白旗を上げて降参する、どうして中国や北朝鮮が日本を侵略するのか、意味がわからない」と熱弁を奮ったそうですが、それに対し色んな学者先生方から、非難が殺到したそうですね。
正直、中国や北朝鮮の脅威は政治的に過剰に喧伝されている面もあるというか、そもそもそんなに危ういのであるならば、日本の防衛費を対GDP比で1%程度に留めてしまっている安倍晋三が、何故右寄りな人たちから批判されないのかサッパリ分かりません(2~3%程度が普通)が、ともあれ「安全保障のことを何も考えていないお花畑野郎」というレッテルが村本様に貼られてしまったことは、痛恨の極みであります。
また、番組出演に先立ち、憲法9条を読んだこともなかったとの事でしたが、番組内容から当然踏まえるべき内容であり、ダウンタウン様の番組に出るのにお二人の名前を存じ上げないというレベルの、恐るべき蛮勇と申し上げる他ありません。それとも、実は番組内容……というか番組名自体知らされず、ロケ番組でよくある、目隠しで車に乗せられて、目隠し取ったら……朝ナマのスタジオやないか~い! みたいなシチュエーションでの御出演となってしまったのでしょうか? それであれば、ぜひ田原総一朗先生に御抗議為さるべきかと存じ上げます。
もっとも、村本様は私の一個下の37歳でいらっしゃるので、小学校の社会科の教科書に、憲法9条と戦争放棄について記載があり、必ず読んでいた世代かと思われますが。
とは言え村本様、上記のようなことは、私、正直半笑いで受け止めることができます。私も所詮、学者でも何でもない市井の者であり、無知の極みであります。もし私が村本様のように朝ナマに出演することになったのであれば、並み居る先生方の知性とディベートテクニックの前に、私など虎の檻に放り込まれた赤子同然、手も足も出なかった事でしょう。村本様が多少の無知を晒されたとて、私にそれほどそれを嘲笑う資格があるのかと仰られば、ぐうの音も出ないのであります。
しかし、番組出演の後になされた幾つかのツイートの中に、どうしても看過できないものがありました。
おれが朝生で無知を怒られていたことに対しておれのツイッターをみて会いにきてくれて「僕も知らない、あの場で村本さんが聞いてくれて嬉しかったそれを伝えにきた」と言ってくれた。おい、バカ学者ども、お前達は街の人を知らない。みんな仕事がある。お前らは知で飯食ってるから知ってるだけ。 pic.twitter.com/Y6TBKa9cKQ
— 村本大輔(ウーマンラッシュアワー) (@WRHMURAMOTO) 2018年1月2日
問題意識をもっていけば怒りがでてくるけどその怒りってのは正義感で正義ってのはなにかを悪に仕上げてる訳だから、その悪に耳を貸さなくなって、白黒で判断する人間にもなってほしくないし、知は、危うい物。知を乗り回す自信ないなあ。 https://t.co/fsCSSWoQZz
— 村本大輔(ウーマンラッシュアワー) (@WRHMURAMOTO) 2018年1月2日
まず、それが巷に役立つ学術成果の類なのか、そうでないのかは置いておいて、少なくとも彼らは職業人としてその分野で研究なり何なりを積んだ上で、その成果をあの場で発表しているのです。しかも、その発言があの場で有効だったのか、無効だったのか、同じ業界の人に見られている立場でです。つまり、自分自身の生活へのリスクさえ抱えた、そういうプレッシャーの中で発言をなさっているのです。
貴方もある意味芸人人生への影響とか、そういうプレッシャーはあるのかもしれませんが、彼らは自分の存在を賭けてあの場に出ているのであります。その内容がひどければ、当然内容をクソミソに言うことはなんの問題もありませんが、貴方のツイートは学術とか知性とか、そういうものに対する根源的な侮辱であり、またそういうもので食べている人々に対する全人格的な侮辱であります。貴方が個人的に学者を軽蔑するのは勝手ですが、とても公にしていい類の内容ではありません。
また、「市民には生活があるのだから、難しいことなど知る必要はない」との趣旨のツイートのようですが、ならばあなたのその考え方と最も合致する思想を持った政治家を、私はよく存じ上げております。
その名は、安倍晋三先生です。
安倍晋三を生み出すもの、安倍晋三的なもの
安倍首相は法学部出身で、憲法改正がライフワークであると言って憚らない政治家であります。また、あらゆるメディアでそのことをご自身で宣伝なさっていました。
その安倍首相、あるとき国会質問で、民主党の小西議員にこのように聞かれました。
この質問、このあとの質問をするための前フリとしての質問でした。
芦部信喜という憲法学者。もちろん普通の人が知っているわけはありませんが、日本の憲法学の最大の権威であります。憲法改正をライフワークとしている人が、憲法解釈に大きな影響を与えている学者について知らないはずはありません。安倍首相は私のように、大学時代に友人と麻雀ばかりやったり飲み歩いたりして過ごし、適当な論文を書いて卒業したようなドクズではありません。繰り返しになりますが、安倍首相は、法学部卒の、憲法改正をライフワークとしている、おまけに2度首相を経験されている、大政治家であります。
野球をやっている人に「王貞治について知っているか?」と聞いて、「知らない」という人はいないでしょう。むしろこのあとの話の前フリであることは、聞かれた側も瞬時に「王貞治の話をするのか? それともホームラン談義がしたいのか?」などと、何らかの把握するでしょう。そういう類の質問でした。
ところが安倍首相は、薄ら笑いを浮かべてこう答えました。
「私は存じ上げておりません」
「私は憲法学の権威でもございませんし、学生だったこともございませんので、存じ上げておりません」
もうこの発言によって、小西議員の予定していた質問は無茶苦茶になりました。そもそもの話の前提が共有できないのですから、なんの議論もできないわけであります。
そして、ネット上のあちこちでこの件は炎上したわけですが、安倍首相を何が何でも応援する「ネット右翼」と呼ばれる類の人々やその界隈の人々は、本件でも首相をしっかりと擁護します。その為に、「憲法学者などそもそも不要」などというロジックをこさえてしまったわけです。そう、学者から攻撃され、「おい、バカ学者ども」とおっしゃる貴方のように、ネット右翼は学者そのものを軽蔑したのでした。
また、安倍首相はこのようなご発言もなさっています。
だからこそ、私は、教育改革を進めています。学術研究を深めるのではなく、もっと社会のニーズを見据えた、もっと実践的な、職業教育を行う。そうした新たな枠組みを、高等教育に取り込みたいと考えています。
「学術研究を深めるのではなく」だそうです。高等教育とは何かについては、どう定義するのかにもよるのでしょうが、医学や建築学のような高度なものは別にして、所謂職業訓練校でやっているような教育を高等教育と呼んでいいのでしょうか? ちょっと首相が何を言っているのか、無知を極める私めには解りかねました。
しかしながら、安倍首相が学術研究というものを軽く見ているということについては、この発言や講演の内容から見て取れます。実利、実学重視。そう言えば聞こえはいいのでしょうが、自分の地位を脅かされたくない権力者がよく使う類のロジックに、学術軽視の実利思想がよく使われる事を、村本様は意識なさっていますか。
例えば、学生のデモ隊などを見て曰く「あいつらは暇な学生連中だ。さっさと社会に出て働け」「暇な学生がXX党に金をもらってやっているんだ」「頭でっかちの学生どもめ、世間の仕事のジャマだ」
村本様もこういった声を、沖縄でよく聞くのではないですか?
左の学問軽視の政治家としては、ポル・ポトが一番有名ですね。彼はカンボジアを、メガネをかけているというだけで「知的階級の人間だ」として処刑をするような、子供が医者をやり、麻酔無しで外科手術をするような、地上の地獄のような国に生まれ変わらせましたが、そのコアになっている思想は、社会主義というより知に対する恐れでした。ポル・ポトが広める社会主義(と言っていいとは到底言えない異様な思想)以外の知を、全精力でもって排除しようとした結果、カンボジアは地獄になったのでした。
安倍首相界隈の発言、また安倍首相自身の発言から、「安倍晋三的なるもの」が何によって生み出されるのか、おわかりですか? 無知を恥とも思わない、自分がぱっと見でわかる表層的な物事だけを尊ぶ、その厚顔無恥さが「安倍晋三的なるもの」なのです。
村本様、貴方の政治への姿勢こそ、「安倍晋三的なるもの」であります。
村本様、貴方はまさに「アベ政治」のコアメンバーであります。誠に御目出度うございます。*1
結び
お笑い芸人から、「テレビ文化人」に華麗なるジョブチェンジを果たされた村本様。これからお笑い番組などへのご出演からは徐々に遠ざかっていかれるでしょうが、週刊誌や討論番組なんかの、社会問題に関心のある(ように見える)薄っすいタレント枠……例えば右の側であれば、ケント・ギルバートや舞の海あたりの枠で、これからご活躍されるのだと思います。左の側だと室井佑月あたりでしょうか? 正直最近あまりテレビを見ないので存じ上げないのですが、そういった方々のお隣に座り、薄っすいコメントを発しながら、末永くテレビ業界でご活躍ください。*2
末筆ながら、村本様のこれからのご活躍を、心よりお祈り申し上げます。
敬具