世間の福島第一原発の処理水にまつわる話は、世間的には下記論点にまとめられる模様である。
- 処理水は安全か否か
- 海洋放出は是か非か
でだ、福島県の漁業関係者としては当然ながら、風評被害が発生すれば即、死活問題に発展することから、海洋投棄には反対するという立場である。
そして、言うまでもないことだが、福島第一原発は東京電力の発電所であり、福島県の漁業関係者にとって、電力を含めた利益をもたらす存在ではなかった。よって、海洋放出を飲む道理などそもそも存在しないのである。
でだ、処理水の安全性について語れるような専門性を自分は有していないので、その点は置いておくとしてだ(勿論置くべきことではないのだが)、処理水を海洋放出する事の是非についても、実はいくつか論点があるはずだ。
- 福島の海にそのまま海洋放出するか
- 東京や沖合などに何らかの方法で輸送したうえで海洋放出するか
- 海洋放出しない別の方法を考える
1点目は先ほども書いた通り、福島県の漁業関係者にとっては、海洋放出を飲む道理などそもそも存在しないのであり、本来選択肢としては2点目か3点目しかあり得ないはずなのである。福島原発の電力の最大の受益者は、自分も含めた東京都民である。放出が必要であり、安全だというのなら、それを受け入れるべきは東京都民である。
で、2点目を語る時に必ずぶち当たるのが、コスト論なのである。コスト論で東京への放出を反対する者曰く
「東京への放出。良いんじゃないですかね。安全な水ですし。膨大なコストを無視できるんであればwww」
そこで、自分は実際に福島から東京に処理水を輸送する場合のコストを算出してみた。
情報ソースは、福塚運送株式会社様の、「一般貨物自動車運送事業に関わる標準的な運賃」の「タンクローリー輸送費用の標準運賃を使った算出方法」である。
上記によると、数式は
距離程運賃×特殊車両割増 + 高速代(往復) + 荷積・取卸料 (弊社届出 標準的な作業で各8,000円)
であるらしい。
上記を当てはめて、福島第一原発から仮にお台場まで処理水を運んだ場合のコストはどの程度のものになるか、算出した結果が下記の通りだ。
福島第一原発からお台場まで処理水を運んだ場合のコスト
ルートは下記の通り。NAVITIMEで算出した。
(出発地点が逆になってしまったが)
タンクの水の総量と、年間排出量はNHKのサイトがソースである。
タンクの中の総量が137万トンを全部タンクローリーで運んでも125億円、年間排出量に至っては3億3,264万円で済む計算である。
タンクローリーという、大量輸送という観点で船に比べて決して効率的とは言えない手段で、それも個別見積もりですらなく、標準運賃を使ったいわば概算見積で、である。
「東京に輸送して海洋放出するのは、コストが無尽蔵にかかるため、非現実な方法である為、採用しえない」という議論が見事に消えたのである。
なお、検査院によると、2021年度までに福島原発事故処理等にかかった費用は、被災者らへの賠償が7兆1472億円、放射能除染関係費用が2兆9954億円、中間貯蔵施設関連が2682億円、廃炉・汚染水対策が1兆7019億円等で総額約12兆1000億円である。
また、最初に掲げた福島民友新聞のサイトによると、「政府が漁業者を支援するため500億円の基金を創設した」そうである。
……東京に持って行って水流したほうが安くない? もちろん、東京にも漁業者がいるのは知ってるが。羽田のアナゴとか、自分も好きだし。ただ、少なくとも東京都の漁業者は東京電力の電力を利用しているのであるから、それを負担する道理は少なくともある。
また、ただ輸送して捨てるだけだと本当にただのコストになるのだし、安全だと主張するのなら、いっそ都内の清掃などに利用すればよいのではないだろうか。主に霞が関、永田町、平河町の辺りを清掃するのに使用すれば良かろう。
そして、またもや一番最初の話にまで戻り、これまでの前提を今一度整理しよう。
- 海洋投棄が始まり、風評被害が発生すれば、福島県の漁業関係者にとっては即、死活問題に発展する。
- 福島第一原発は東京電力の発電所であり、福島県の漁業関係者にとって、電力を含み利益をもたらす存在ではないので恩義もない。ゆえにデメリット以外ない海洋放出を飲む道理などそもそも存在しない。
- 東京に輸送するコストは、年間3.3億円程度。たまった水を全部一気に運んでも125億円程度。
……これ、どうやって海洋放出を説得せいというのよ。こんな前提条件で「現実を見ろ! 海洋投棄しかないんだ!」とか言い出したらそりゃ誰でも怒るわ。
ていうか、海洋放出についての選択肢な。
- 福島の海にそのまま海洋放出するか
- 東京や沖合などに何らかの方法で輸送したうえで海洋放出するか
- 海洋放出しない別の方法を考える
海洋放出しない方法、まだまだあるのよ。
- タンクを置く場所を増やして時間稼ぎする(土地を得られれば向こう48年はまだ逃げられるらしい)
- モルタル固化する
他の選択肢があり、漁業関係者が反対している中、海洋放出する意味が全く分からない。むしろ、嫌がる漁業関係者を押しのけて放出するのを支持しているような連中に目配せするためにやっているとしか思えない。