人間の思想がもたらす認知の歪みというものを、まざまざと見せつけられた2つの事案の共通点について。
ヘイト投稿町議について
まずは奈良県安堵町議会の増井敬史町議が、フェイスブックに異常な投稿を繰り返していた件。
どのような投稿をやっていたのかというと、このような投稿である。
内容よりまず、絵文字がアホさを引き立てていて凄いw 牛さんの絵文字可愛いwww 町議会議員って、絵文字でブログ書いちゃうような人がやれんのw(でも年齢的には立派な初老の男……)
内容についてはもはや論評に値しない妄想の類だが、注目したいのは福島瑞穂は実は「趙春花」という在日朝鮮人であるという御説。こんなものはネット以外のどこにもソースが転がっていないような典型的な「ネットde真実」事案である。このおっさんの情報ソースは、ネトウヨブログの類やそういったイデオロギーを持つツイ垢やFB垢なのではないかというのが強く疑われる。
この町議、その後MBSの取材を受け、謝罪と弁明を行うのだが、その内容がまた爆笑モノである。
まずは真摯に、丁寧に、謝罪をする。
自分自身の不勉強に原因があったと、心から反省しているようにみえる。
ところが、フェイスブックで批判した国会議員らについて水を向けられると、こうなるのである。
騒動を起こしたのはそもそもオメーだし、世界中から閲覧できるフェイスブックで全世界に向けて投稿したのもオメーだよwww 大体、リアルで人に向かって「反日勢力」なるワードを堂々と口にできるの、すげえな。
そして、自身の進退について聞かれると、このように涙ながらに語るのである。
日本のためにフェイスブックもやっていた
早速今年一番のパワーワードの候補が出てきたwww 俺もはてなブログやTwitter、日本のためにやっとるわwww
辞職すると、「左翼の思うつぼ」なのだそうです。左翼の俺としては、当世の右翼の頭の悪さを濃縮したようなこの方にはぜひとも議員を続けていただきたいし、なんなら国会議員になっていただき、自民党を内側から食い荒らしていただきたいが。
でも、結局今日辞職しちゃった。
最初にリンクをはったMBSの動画で見るとより破壊力満点なので、ぜひご覧いただきたい。画面キャプのテロップ見て、「こんなんリアルで人に向かって本当に言ってるの?」と、俺も半信半疑だったが、ほんとに言ってた。いやはやいやはや。
枝野「お祝い」発言捏造について
そして、本日もう一つ、如何にも「ネットde真実」事案と言うしかない事案が持ち上がった。それがこれである。
枝野幸男「草津白根山の噴火によって訓練中の自衛官が亡くなった事に心から哀悼の意を表します。また被害に遭われた皆さんに心からお祝いを称します」
— DAPPI (@take_off_dress) 2018年1月24日
被害に遭われた方に『心からお祝い』するのが立憲民主党なようです#kokkai pic.twitter.com/xKr7hIdNDk
いくらなんでもこの文脈で「お祝い」とかするわけねえし、耳の良し悪し以前に、自分にとって聞きたいように聞いたのだろうとしか言いようがない。
即日、ハフィントンポストが検証し、フェイクであると断じている。
だいたい枝野自身が言う通り、この場で「お祝い」などと聞こえたのなら、議場が騒然となっていたはずである。DAPPIは自民党も自衛官が亡くなったことを「お祝い」しているとでも言うのだろうか?
私の滑舌で多くの皆さんにご心配おかけして申し訳ありません。もし多くの方に「お見舞い」が「お祝い」と聞こえていたら、議場が大騒ぎになったと思いますが、そのようなことはなかったので「お見舞い」と正確に聞き取れた方が大部分だったと思うのですが…⇒ https://t.co/CvgYReQjIq
— 枝野幸男 (@edanoyukio0531) 2018年1月24日
さて、DAPPIのフェイクニュースといっても良いツイートに対して、このエントリーを書いている時点ですでに15,000もリツイートされており、このDAPPIとかいうゴミの拡散力が、ネトウヨ界においてなかなかのものであることが分かる。
まあ、つまりこの程度の、元の話の文脈と何ら関係のない強引な解釈までやって、事実を捻じ曲げようとする輩の書き込みを支持し、多数がフォローしてしまう程度の人間が、ネット右翼界のマジョリティなのだと言わざるをえない。
なお、自分、こんな予言をしたのですが
フェイクが指摘されたにも関わらず、今日か明日くらいで百田あたりが拾って、更に拡散されると予想。
— ボビー・ブラウン (@po_jama_people) 2018年1月24日
自分の投稿を拾ってくれたのか、百田尚樹大先生が、見事にやってくれました。有難う御座いますwww
言い間違いを非難する気はないが、これはひどいなあ。
— 百田尚樹 (@hyakutanaoki) 2018年1月24日
不謹慎な言い方になるが、この動画は歴史に残るだろうな。 https://t.co/O4Pu8tqG2N
ネットには真実がある?
さて、FBへのヘイト投稿町議と、枝野「お祝い」発言捏造について書いてみたが、共通しているのは、事実に対する感覚というか、その出来事に事実の手触りが感じられるのか、確かめようともしない、いかにもネット的なデジタルな反応をしているという点である。
福島瑞穂が在日朝鮮人であるなど碌なソースもない与太話の類だし、国会議員をやりながら「反日勢力」などどうやってなるというのか(結果的に日本に悪影響を与えるか否かは別にして)? 枝野の発言に至っては、それまでの発言の文脈の中で、どうして「お祝い」などという言葉が出てくるのか? これらを検証するのにはなんの知識もいらない。常識に照らし合わせてみて、ちょっと考えればありえないことであるとすぐ分かる話である。500mlのペットボトルの中から、5Lの水が出てくるくらいありえない話だ。
ところが彼らはこんなありえない話の数々を、真顔で受け止め、拡散して回るのである。それも「日本のために」。
よく昔、ネット右翼が「ネットで真実を知った」などということをよく言っていた。と言うか、今でも色々批判をされて、言葉がネジ曲がっていっているが、基本的にネトウヨが飛びつくのは、「ネットで知った新たな真実」である。そういうのを揶揄して、「ネットde真実」なる言葉も生み出された。
この、「ネットde真実」について、下記リンク先にいい事が書いてある。
大前提として、人間には自分に都合のいい情報を特段に信じやすいという性質があることを自覚しなければならない。政治家、記者、編集者、ネット住民、このページを編集した我々や、この項目を読んでいるあなたも含めて、あらゆる人間にはその性質が備わっている。真に公正な情報などありえず、真に公正な情報収集もまた不可能である。
上記前置きは非常に重要である。自分自身も含めて、真に公正な情報を知っているものなど一人もいない。それ故、その情報が本当に事実なのか。事実らしさがあるのか。判断する物差しを持って、確認するようにしなければならない。
もちろんすべての人間に新聞社がやっているような裏取り取材をすることなどできないし、ある程度間違えたり誤解するのは仕方がない。
だが、それにしても今回取り上げた2つの事案は、何ら検証をする気がないというか、むしろ検証して分かる事実より、己の心に浮かんだ「真実」に乗ってやりたいという意思がありありと感じられる。
そのようにして、「ネットde真実」は作られていくのだ。
ヘイト投稿町議やDAPPIのような連中のフェイク投稿に対しては、「ネットde真実」と大いにバカにしてやればよい。こういう連中のフェイクを暴き立て、バカにしてやることこそが、フェイク拡散活動のモチベーションを奪い、ネットをまっとうな場所にしていくのである。
同時に、「ネットde真実」の威力を甘く見てもいけない。こういう連中が民主主義を歪め、日本の政治を破壊しているのである。一つ見つけるごとに、スルーすることなく、丁寧に一つずつ潰していかなければならない。*1